園では子どもの『かみつき』が比較的よく見られます。『かみつき』は低年齢児に多く見られますが、筆者の経験では5歳児でも『かみつき』が見られることがありましたし、私自身もうっかりかみつかれた経験があります。
時期や年齢を問わず起こる『かみつき』
『かみつき』が起こった時、子どもや保護者の対応で悩んでいる保育士さんは多いのではないでしょうか?子どもに「かんじゃだめ」「かんだら痛いよ」と注意するだけでは解決しないどころか、むしろ逆効果です。対処を間違えると、クラスに『かみつき』が広がることも、、。
また、『かみつき』が起こってから保護者に謝っても、園で十分な対策ができていなければ火に油を注ぐこともあります。筆者は保護者対応に失敗し保護者との関係をこじらせてしまった経験があり、とても苦しかったです。
子どもの『かみつき』を改善する方法や保護者対応はいくつかのポイントがあります。
保育歴20年の現役保育士が、これまで経験から子どもの『かみつき』の要因とその対応を教えます。
この記事を読むと、子どもの『かみつき』が起こる要因を理解し、子どもにも保護者にも落ち着いて対応できるようになります。
「突然かみつくから止めきれない」「保護者がピリピリしてる、、」「明日園に行くのが怖い、、」と悩んでいる保育士さんはぜひ読んでいただきたいです。
- 前提条件
『加害』『被害』というフィルターは使いません。
『かむ=悪い』と捉えてしまうと、かみつきが起こった要因が見つけにくくなります。
そして、子どもの対応は『その場でその時に』が鉄則です。
年齢や発達にもよりますが、子どもは一度に覚えられる量が少なく、覚えている期間も大人より短いようです(短期記憶)。
過去にあった記憶が定着するのは3・4歳以降になってから。時間がたってからでは、なぜかみついたのか、もしくはかみついたことさえ覚えていない場合もあります。
また、保護者とは日頃から良好な信頼関係を築いておくことも大切です。保育において、これが肝となります。
『かみつき』が起こった時の対処
- 子ども同士を離す(保育士2人で、かんだ子どもとかまれた子どもそれぞれ対応するのがいいでしょう。)
- かまれた部位を確認する(服の上からでも歯形がはっきりついていることがあります。)
- 直接肌にかみついた場合は流水できれいに洗い流す
- 傷がある場合は保冷材等で冷却する
歯形があっても冷却すると消えることがあるので、落ち着いて!大げさにすると周りの子どももびっくりしちゃうので、あくまでスマートに対処!
子どもの『かみつき』の3つの要因とその対策
- 子どもの発達上の特性や子どもの育ち
- 保育の環境
- 家庭の状況
子どもの発達上の特性や子どもの育ち
- 歯が生え始めてかゆい
- さみしい時に周囲の注意をひく
- 伝えたいことをうまく言葉で伝えられない
- 愛情表現の一つだと誤学習している
歯が生え始めてかゆい
『歯がため』を使ってみましょう。
お気に入りのタオルなど、布類を口にすると安心する子どももいます。
さみしい時に周囲の注意をひく
自分に注目してほしい、かまってほしい気持ちを満たしてあげましょう。
保育士と子どもの1対1の時間を作ってゆったりとかかわり、離れていてもあたたかい視線を子どもに向けて『あなたのことを見ているよ』とサインを送ってみましょう。
伝えたいことをうまく言葉で伝えられない
言葉がまだ未熟でうまく言葉で伝えられない時期は、「○○がほしかったのね(子どもの気持ちを受け止める)」「○○かして(保育士が見本を見せる)」と保育士が言葉に出して仲立ちします。
ポイントは
①子どもに言ってほしい言葉を保育士が言う
➁子どもが言葉を言うことを強要しない
子どもは周囲の人の真似をします。正しいモデルを示せば自然と身についていくもの。
ですから、「『かして』っていうんだよ、言ってみて」と子どもに復唱させる必要はありません。
子どもの後伸びする力を信じましょう。
愛情表現の一つだと誤学習している
家庭でも父母にかみついていることがあります。
家庭で『かみつき=愛情表現やふざけているだけ』と受け止められている場合は、『かみつき』は相手を傷つける行為であること、子どもが園で自己主張するときにトラブルの原因になることなどを、家庭と共通認識するようにしておきましょう。
保育の環境
『一時的に』子ども同士の距離をあける(場所、時間を分ける)
一時的な対応として、物理的に離します。
場所:遊びや食事などの場所に配慮する。
遊ぶ場所は、遊びの種類ごとにコーナーに分けます。
個別に布(敷物)を準備し、そこに一人ずつ座って遊ぶこともあります。(遊びの保障をする)
時間:手洗いやトイレなどのタイミングをずらす。
かみつきのトラブルが続く時は、子どもも大人も疲弊しがちです。いつトラブルが起こるか予測できず保育がピリピリしてしまいますね。
子ども同士の距離をあけて、まずはトラブルを回避しましょう。
ただ、距離をあけて『かみつき』のトラブルが減ったとしても根本的に解決したわけではないので、あくまで一時的な対応だと認識しておきましょう。
子どもの遊びや動線を観察して、トラブルの原因を見つける
観察ポイントは『遊び』と『動線』の2つ。
主観や思い込みを入れず、あくまで客観的に観察します。
『遊び』
どんな遊びをしていますか?遊び込めていますか?
〈繰り返ししている〉〈長い時間している〉遊びが、必ずしもその子どもの〈好きな遊び〉とは限りません。
〈他に遊ぶおもちゃがない〉〈遊ぶ場所がない〉〈どのように遊んだらいいのかわからない〉だけかもしれません。
- おもちゃの1人当たりの量を増やす
- 遊ぶ場所を確保する
- 保育士が遊びの見本を見せる
など遊ぶ環境の工夫をします。
『動線』
子どもの行動を見てみましょう。おもちゃを取りに行くとき、トイレに行くとき、手を洗いに行くとき、外に出る時、、、。さまざまなシーンで子どもの動きが不自然に重なることはありませんか?不要なトラブルを避けるため、物の配置や時間の組み換えを試してみましょう。
遊びの時には、子ども同士のかかわりを積極的に展開できるよう保育士がそばで見守り仲立ちしましょう。
活動時間や休息時間は適切か?
子どもの発達にあった活動時間でしょうか?また子どもの体調や季節に合った活動でしょうか?園庭での遊びをしている最中に「お部屋であそびたい」という子どもがいた場合、筆者の園では園庭と室内に分かれて遊ぶことも選択肢のひとつです。保育士の人数や、園庭・部屋の配置にもよりますが、柔軟に対応できるのが望ましいです。
また、午睡時間の確保、午睡室の雰囲気にも配慮しましょう。筆者の園では、入眠前にマッサージを行い、暗すぎず室温湿度を調整した静かな部屋で午睡します。眠れなくても横になっているだけで休息できるので、一定時間眠れなかったら起きて別の部屋で遊ぶこともあります。
保育士の言葉がけやかかわり、位置、人数や動きは適切か?
保育士の声の出し方、音量、言葉遣いは適切でしょうか?また、保育士の位置は、子ども全体が見える場所で点在しているでしょうか?そしてこれが意外と盲点なのですが、保育士の人数は、少なすぎず多すぎない人数でしょうか?保育士が多ければよいということはありません。
多すぎると、子どもに圧迫感を与え、油断から子どものトラブルを見落とすことがあります。
適切な人数を配置するようにしましょう。
家庭の状況
園での生活は家庭との連続です。家庭との密な連絡はとても重要。登降園時には積極的に情報を収集しましょう。
- 家庭生活に乱れはないか?(睡眠、食事、兄弟との関係など)
- 家庭内での変化はないか?(母親の妊娠、家族の体調不良など)
- 家族の子どもへの対応は適切か?(父母、兄弟、祖父母など)
- 家庭の物的環境に変化はないか?(引っ越しなど)
また、子どもの発達について家庭と共通理解をしておくとよいでしょう。
0~1歳児:共感覚の時期(口に物を入れることで物事を認知判断している)歯が生え始めて不快感でかむ。
1~2歳児:〈自分でしたい〉〈~が欲しい〉など自我が芽生え、それを伝えようとして突発的にかむ。
2~3歳児:我慢してきたことが、あることをきっかけに爆発してかむ。いつも手を出されている子どもが自分を防御するためにかむ。〈かみつけば要求がかなう〉と学んでしまいかむなど。
保護者対応のポイントは、かみつきなどのトラブルを『思いがけずに起こってしまった非日常』ではなく、『この時期に起こるとわかっていた日常のできごと』として伝えることです。
『子ども同士のかかわりが活発になってきたこと』『今後起こるかも知れないこと』を日頃から伝えておきます。
いわゆる『伏線』を張っておくのです。
(例)「Aちゃん、最近まわりの物に興味を持ちだしていますね。
今日はBちゃんの持っているおもちゃに興味をもって、パッと取ったんです。
Bちゃんは『あ~!』って。
Aちゃんはびっくりしたみたいですが、『かしてっていうのよ』って伝えるとAちゃんは『あ~』と言って安心したように一緒に遊び始めました。
今の時期、こういう姿はよく見られます。
『自分の』『使いたい』『いやだ』の気持ちが出てきて、ひっかきやかみつきにつながることがあるんです、、。
私たちもできる限り止めるようにしますが、、。」
『かみつき』を子どもの成長と日常の一部分として、肯定的な枠組みの中で保護者に伝えておくと、『かみつき』があったとしても、『予測していた日常』として受け止められるはずです。
日頃から家庭と良好な信頼関係を築いておくことが重要です。
『かみつき』を非日常の出来事として保護者に伝えた結果、初めてかみつきを経験したことと、かみつきが数回続いてしまったことで保護者に不信感を持たれたてしまったことが、、。日頃の保護者との関係や、かみつきの捉え方の共通認識の大事さが身に沁みました。
園全体で対策する
園全体で共有し、子どもや保護者の対応を統一します。
保育士間のかみつきに対する考え方や対応がまちまちだと、子どもは混乱し保護者に不信感を持たれてしまいます。
多数のトラブル事案を経験してきた先輩に相談しながら、保育士としての困りごとを分かち合いより良い保育を目指しましょう。
まとめ
かみつきの要因と対応は次の通り
- 子どもの発達上の特性や子どもの育ち
- 保育の環境
- 家庭の状況
子どもの発達上の特性や子どもの育ち
- 歯が生え始めてかゆい
歯がためや子どもの安心する物(お気に入りのタオルなど)を使う。
- さみしい時に周囲の注意をひく
保育士と子どもの1対1のかかわりを持つ。
離れていてもあたたかい視線を子どもに向けて『あなたのことを見ているよ』とサインを送る
- 伝えたいことをうまく言葉で伝えられない
「○○がほしかったのね(子どもの気持ちを受け止める)」「○○かして(保育士が見本を見せる)」と保育士が言葉に出して仲立ちする。
子どもに言ってほしい言葉を保育士が言う
子どもが言葉を言うことを強要しない
- 愛情表現の一つだと誤学習している
かみつきは相手を傷つける行為であること、園で自己主張するときにトラブルの原因になることなどを、家庭と共通認識する。
保育の環境
- 「一時的に」子ども同士の距離をあける(場所、時間を分ける)
- 子どもの育ちや遊びや動線を観察して、トラブルの原因を見つける(主観や思い込みを入れず、あくまで客観的に観察する)
『遊び』
おもちゃの1人当たりの量を増やし、遊ぶ場所を確保する。
保育士が遊びの見本を見せるなど遊ぶ環境を工夫する。
『動線』
物の配置や時間の組み換えをする。
遊ぶ時には、子ども同士のかかわりを積極的に展開できるよう保育士が仲立ちする。
『活動時間や休息時間』
子どもの発達、体調、季節などに配慮する。
午睡は、時間の確保、午睡室の雰囲気にも配慮する。
『保育士の言葉がけやかかわり、位置、人数や動き』
保育士の声の出し方、音量、言葉遣いが適切か確認する。
保育士は、子ども全体が見える場所に点在する。
保育士の人数はが多すぎると、子どもに圧迫感を与え油断してしまい子どものトラブルを見落とすことがあるため、適切な人数を配置する。
家庭の状況
家庭生活(睡眠、食事、兄弟との関係など)、家庭内での変化(母親の妊娠、家族の体調不良など)、家族の子どもへの対応(父母、兄弟、祖父母など)、家庭の物的環境の変化(引っ越しなど)
登降園時などには積極的に家庭の情報を収集する。
子どもの発達について家庭と共通理解をしておく。
0~1歳児:共感覚の時期(口に物を入れることで物事を認知判断している)歯が生え始めて不快感でかむなど。
1~2歳児:〈自分でしたい〉〈~が欲しい〉など自我が芽生え、それを伝えようとして突発的にかむなど。
2~3歳児:我慢してきたことが、あることをきっかけに爆発してかむことがある。いつも手を出されている子どもが自分を防御するためにかむ。〈かみつけば要求がかなう〉と学んでしまいかむなど。
保護者対応のポイントは、かみつきなどのトラブルを『思いがけずに起こってしまった非日常』ではなく、『この時期に起こるとわかっていた日常のできごと』として伝えること。
園全体で対策する
園全体で共有し、子どもや保護者の対応を統一する。
何事も積み重ねが大事!焦らずコツコツいきましょう。
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